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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)53号 判決 1951年3月29日

本籍

朝鮮慶尚南道昌原郡能東面新砂里

住居

兵庫県有馬郡三田町一七九番地

薪炭業

松田又は松山安雄こと

曹聖珉

大正三年二月一二日生

右に対する食糧緊急措置令違反被告事件について昭和二五年一〇月二六日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申出があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小西喜雄上告趣意第一点について。

新刑訴法を如何なる時から如何なる事件に適用するかは、経過法の制定に際して諸般の事情を勘案して決せらるべき問題で、法律に一任されているところである。従つて、刑訴施行法二条が新刑訴法施行前に公訴の提起があつた事件について新法施行後もなお旧刑訴法及び刑訴応急措置法を適用すべき旨を規定したとしても何等憲法に違反するものではなく(昭和二三年(れ)一五七七号同年五月一八日大法廷判決集三巻六号八四七頁参照)、しかも同条は「すべて同類型上の事件に同様の取扱をなすものであつて、もとより憲法一四条の平等の原則に違反するものではない」(昭和二四年(れ)二三二号同二五年七月一九日大法廷判決集四巻八号一四二九頁参照)。この見解は既に当裁判所大法廷の判例の判示したところであり、反対の見地に立つ所論には賛同し得ない。のみならず、論旨は被告人が「上告裁判につき不利益に不平等に処置される」というだけで何等原判決の法令違背を主張するものでないから上告理由として採用に値しない。

同第二点について。

原判決は単に主食の不正受配の事実を認定しただけであつて、被告人に詐欺の犯意があつたことを認定してはいないのである。従つて原審が本件につき食糧緊急措置令一〇条本文を適用しただけで、刑法二四六条一項によつて処断しなかつたのは当然であり、原判決には所論のような違法はない。しかも本件において原審が適用した食糧緊急措置令一〇条よりも重い法定刑を定めている詐欺罪を以て問擬すべしとなす論旨は、被告人のため不利益を主張するものに外ならないのであつて上告適法の理由とならない。

よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 茂見義勝関与

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 眞野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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